研究課題
国際学術研究
過去3年間にわたる研究成果は以下の通りである。なお、成果報告の重複をさけるため、平成2年度については、当該年度のまとめの用紙に記した。(1)IX因子の第2EGF様ドメインの機能IX因子Fukuoka(血友病B)は、正常に比べ抗原量64%、酵素活性3%の先天性機能異常症である。IX因子FukuokaのXIa因子及びVIIa因子、RVVーXによる断片化様式は、いずれも正常IX因子と同じであった。従って、活性低下の原因は、活性化の際に切断されるアミノ酸残基の置換ではなく、別の位置にあると考え、IX因子Fukuokaの構造解析を行なった。その結果、IX因子Fukuokaの構造異常は、第2EGF様ドメイン内のAsnー92→Hisの置換にあることが判明した。次に、IXa因子Fukuokaのエステル基質に対する水解活性を正常分子と比較し、さらに精製X因子とVIII因子を用いた再構成系実験を組み、正常と異常IXa因子のX因子活性化能を調べた。異常IXa因子のエステル基質に対する水解活性は、正常分子と殆ど同じであり、従ってIXa因子Fukuokaの活性部位は正常と同じ様に形成されていることが判った。さらにX因子活性化の時間曲線及びVIII因子の濃度依存性を、それぞれ正常と異常IXa因子で比較した結果、IXa因子FukuokaのX因子活性化能は、正常に比べ顕著に低下していることが明らかとなった。そこで、異常IXa因子のX因子に対するKm値とVmax値を求めた所、IXa因子FukuokaのKm値は正常分子の約1/10でX因子に対する親和性は低下していなかったが、Vmax値は正常のそれの約1/10であった。以上の如く、IX因子Fukuokaの第2EGF様ドメイン内でのAsnー92→His置換は、エステラ-ゼ活性に影響を及ぼさないので、この異常分子の活性低下の原因は、Asnー92→Hisの置換により、VIII因子/X因子との相互作用が低下したためと考えられる。従って、IX因子の第2EGF様ドメインは、VIII因子ないしX因子との相互作用部位である可能性が強く示唆される。(2)VIIa因子の高感度活性測定法の開発VIIa因子はCa^<2+>及びリン脂質存在下で、組織因子(TF)と分子複合体を形成し、天然基質であるIX因子ないしX因子を活性化する。分子レベルでのVIIa因子とTFの相互作用については、まだ殆ど解明されてないが、その理由のひとつは、VIIaーTF複合体の活性を直接測定できる適当な合成基質がないからである。そこで、我々はZーArgーpーnitrob enzyl ester(ONb)基質の水解を高感で定量する方法を検討するとともに、新しいペプチド基質の開発を試みた。また、この測定法を用いて、VII因子のエステラ-ゼ活性に及ぼすTFの影響を調べた。VIIa因子の活性測定法は、未分解の基質(ZーArgーONd)と水解によって生成するpーnitrobenzyl alcoholを、オ-トサンプラ-と直結した0.1%TFAー45% CH_3CN(isocratic)系のCosmosi 3C18(2.6×50mm)カラムを用いた逆相HPLCにより分離し、基質の水解量は280nmでのpーnitro benzyl alcoholのpeak heightから定量した。先ず、VIIのエステラ-ゼ活性測定の反応条件を調べた結果、VIIa因子によるこれら基質の水解は、TF濃度依存的に促進されることが明らかとなった。この結果は、かつてNemersonらがVIIa因子のエステル基質水解は、TFの存在下で影響されないという報告と異なった。また、このTFによるVIIa因子のエステラ-ゼ活性増強効果は、ウシ脳から精製したTF及びヒトのreTFでも再現できた。IXa因子及びXa因子も、これらエステル基質に対して水解活性を示すが、TFによる活性の増強効果はなかった。従って、TFによるエステラ-ゼ活性の増強効果は、VIIa因子特有のものと考えられた。以上の結果は、TFがVIIaのセリンプロテア-ゼ領域の結合する可能性を示唆する。一方、VIIaのTF結合部位を明らかにする目的で、VIIaをαーキモトリプシン処理することにより、γーカルボキシグルタミン酸(γーGla)ドメインを除去した誘導体、及びVIIa由来のγーGlaドメイン含有EGF断片を調製した。これらの誘導体を用いて拮抗実験によりVIIaとTFとの相互作用部位を検索した結果、γーGla含有EGF領域にTFとの結合部位のあることが明らかとなった。目下、さらに各種のVIIa由来断片を調製しつつ、VIIaーTF結合部位の同定を行っている。
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