研究課題/領域番号 |
63044125
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
小泉 修 福岡女子大学, 家政学部, 教授 (50094777)
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研究分担者 |
BODE HansR. カルホルニア大学, アーバイン校・発生生物学研究所, 教授
杉山 勉 国立遺伝研究所, 発生遺伝, 教授
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研究期間 (年度) |
1988 – 1990
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キーワード | 神経回路網 / 発生神経生物学 / 散在神経系 / 螢光抗体法 / 神経ペプチド / 単一クロ-ン抗体 / 突然変異体 / ヒドラ |
研究概要 |
腔腸動物ヒドラは、動物界で最も単純な神経系、散在神経系を持ち、脳や神経節の分化が見られず体全体に神経網を形成している。最近、神経ペプチドの抗血清および単一クロ-ン抗体を用いた蛍光抗体染色法により、Whole mount標本でこの神経網を正確かつ詳細に観察することが可能になった。その結果、散在神経系といえども体全体に神経網が均一に分布しているのではなく、神経系は多くの部分集合から成り立っていて、神経網は極めて部位特異性の高い分布を示すことが判明した。 申請者は、頭部再生中の神経網の形成過程と出芽中の頭部神経網の形成過程について、神経ペプチドRFamideの抗血清、上皮細胞の部位に特異的な単一クロ-ン抗体、形態形成異常の突然変異体とそのキメラ、などを用いて神経網の形成機構を検討してきた。 本重点研究の2年間の援助も得て、本申請の課題については現在までに以下の事項が明らかになった。 1.ヒドラの再生中の頭部神経網の形成は二段階で進行し、単一クロ-ン抗体によって示される上皮細胞の振る舞いと一致する。 2.形態形成異常の突然変異体の示す頭部神経網の再生過程の異常を同定し、頭部神経網の形成は独立した2つの過程から成り立つことが判明し、先の二段階説を実証した。 3.神経細胞と上皮細胞が異なる動物株(突然変異と野生株)由来のキメラを用いた研究から、神経網形成中の神経細胞の振る舞いは、上皮細胞に支配されることが判明した。 このように、神経網形成が、再生中あるいは出芽中の上皮細胞によって供給される環境に支配されることを、多くの例と多くのレベルで示すことができた。 更に上述の研究成果により、神経網形成の研究には、神経網形成中の上皮細胞と神経細胞の相互作用の研究が重要になってきた。神経網形成を引き起こす上皮細胞の位置環境とはどのような分子によって担われているのか。又、上皮細胞と神経細胞の相互作用の分子機作はいかなるものか。 今回の研究では、神経ペプチドRFamideの抗血清で免疫組識化学的に染色される神経網について、上述の問題を検討した。 特にヒドラではよく知られている形態形成勾配の役割について検討した。 その結果、1.形態形成勾配の異常を示す各種突然変異体は、神経分布と神経網再生の両者について異常を示し、その異常の傾向は形態形成の勾配異常と一致していた。又、2.Protein Kinase Cの2 ndmessengerであるDAG(Diacylglycerol)でヒドラを処理すると、体幹の頭部形成促進能が上昇し、その時に、神経分布、神経網再生とも、変化がみられた。この変化は、高い頭部形成促進能を示す突然変異体と同様の変化であった。これらの研究結果より、ヒドラの神経網の維持と形成に、上皮細胞の形態形成能力の勾配が重要な役割を果たしていることが強く示唆された。 今後は、形態形成勾配の化学的実体である形態形成因子(頭部形成促進分子と頭部形成抑制分子)のヒドラの神経網の維持と形成機構における役割を明らかにする研究が必要である。
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