研究課題
国際学術研究
前年度(88年度)5、6月に米国テキサス州パレスティンのNSBF(National Scientific Balloon Facility)にて行った2回の気球観測の結果を解析し、銀河系星間物質の理解のための重要な知見を新たに得ることができた。気球観測の対象は、大規模星生成領域であるM17(オメガ星雲)、NGC6334星雲、及び銀河系の中心核領域、および銀河円盤部の広い領域であった。これらの天域において一階電離炭素イオン(C^+)及び中性酸素原子(O)の放射する遠赤外スペクトル線、[CII]158μm、[OI]63μmが検出された。M17、NGC6334については、大規模星生成領域特有の強い紫外線放射場が高密度の分子ガス雲を照らしていること、分子ガス雲は塊状(Clumpy)の構造であることが我々の観測から直接的に証明された。また、銀河系中心領域の観測からは、中心付近の活発な星生成活動を示唆する結果が得られた。さらに最も特筆すべき観測事実は、銀河面に沿った広い領域から、広がった[CII]158μm放射を検出し、しかもそれが極めて大きい強度を持っていることである。この結果、個々の星生成領域やHII領域に付随しない拡散[CII]放射成分が、広く存在することがわかり、しかも銀河面からくる全[CII]放射量のほとんどが拡散成分からのものであることがわかった。一方、この[CII]放射の拡散成分の強度分布は、星間分子雲の存在を示す一酸化炭素分子のミリ波スペクトル線(^<12>CO J=1→0)の分布に最もよく似ていた。また星間固体微粒子の存在を示す100μm連続波放射、及び、電離ガスの存在を示す5GHzの連続波放射とも、分布に類似性があった。これらのことから我々は、この広がった[CII]放射は、分子雲の表面に形成された「広がった光解離領域」から放射されている可能性が高いと結論することができた。そしてこの場合には、光解離領域のC^+領域が占めるガスの質量は^<12>COでトレ-スされる分子雲ガスの40%にも達することになり、銀河系星間ガスのこれまでの描像を改める必要が出てきた。また銀河系の全[CII]光度は太陽光度の約2.8×10^7倍で、全遠赤外光度の約0.36%を1本のスペクトル線でになっていることになる。これはCO分子線の数千倍にあたる。光解離領域は銀河系空間内での光(電磁波)エネルギ-の流れにおいて最も重要な星間ガスであるともいえる。この銀河面に広がった[CII]成分の観測については、今回の観測は、汎用の望遠鏡で行われた試行的なものであったにもかかわらず、非常に重要な知見が得られた。そこで、専用の気球観測装置を用いて銀河面の広域サ-ベイをすることを計画しており、その結果、銀河系星間物質と紫外線放射場の相互作用という、いままで知られていなかった「ダイナミック」な側面を必ず描き出すことができると期待している。なお我々の観測装置、観測手法は非常にユニ-クなものであり、国内はもとより世界的にも類を見ない。また得られた観測結果、導かれた結論も新しい知見であり、かつ重要度が高いと考えられる。
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