研究分担者 |
森口 幸雄 リオグランデドスル大学, 老人病研究所, 所長
李 迪原 上海高血圧研究所, 生化学部, 副部長
王 洪 上海高血圧研究所, 薬理部, 部長
王 一飛 上海第二医科大学, 学長
奈良 安雄 島根医科大学, 医学部, 助手 (80116417)
堀江 良一 島根医科大学, 医学部, 助教授 (60127529)
森 忠三 島根医科大学, 医学部, 教授 (10025562)
WANG Hong Chairman of Pharmacology, Shanghai Research Institute of Hypertension
WANG Yi Fei President, Shanghai Second Medical University
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研究概要 |
我が国で家森らによって開発された高血圧、脳卒中など循環器疾患のモデル動物による実験病理学的研究はじめ疫学的、臨床医学的知見は、循環器疾患が栄養条件のコントロ-ルで予防が可能であることを次々立証してきた。その成果をふまえて、国際コンセンサスを得られ、また科学的に標準化された方法を用いて中国の特色ある地域およびブラジル在住日系人の調査を行ない中国人、日本人における循環器疾患と栄養因子の関係について検討し、東洋人の食生活が欧米化した場合の循環器疾患の危険因子の分析を行なった。 1988年にウルムチ、アルタイ、トルファン、ホ-テン、1989年に広州にて「循環器疾患と栄養国際共同研究(WHOーCARDIAC Study)」の方法に基づいて、コロトコフ音自動記録血圧計による血圧測定、アリコ-トカップによる24時間採尿、採血などを行なった。1985ー86年までに同方法による調査を北京、上海、石家荘、貴陽、広州、ラサにて終了しており、併せて比較検討した。広州は、1985年と1989年の2度にわたって調査をしたが、田園地帯から工場誘致地地帯への急激な変貌に伴う、食習慣の変化が、食塩摂取量の増加(尿中排泄量として5.7g/日からの8.3g/日へ)、ナトリウム/カリウム比の増加(4.2から6.9へ)、蛋白摂取量の増加(尿中尿素窒素排泄量として6.0g/日から7.2g/日へ)などの形で現われ、肥満度の増大(18.5Kg/m^2から20.1Kg/m^2)、高血圧罹患者の増加(0%から15%へ)などの変化が認められた。よって広州の2回の調査結果は別々に扱い、計11集団について検討した。血圧は1985年の広州(100.2±2.7/59.5±1.6mmHg)が最も低く、北京(133.6±5.4/85.3±3.5mmHg)が最も高かった。肥満度(Kg/m^2)は収縮期血圧(SBP)(r=0.609,p<0.05)、拡張期血圧(DBP)(r=0.711,p<0.05)ともに有意に正相関した。尿中食塩排泄量については、最低の1985年の広州(5.7g/日)から最高のラサ(14.9g/日)まで約3倍の開きがあった。尿中食塩排泄量とSBP(r=0.824,p<0.01)、DBP(r=0.0807,p<0.01)との間に有意な正の相関が認められた。また魚貝類に多く含まれるタウリンの尿中排泄量を尿中尿素窒素で除した量とSBP(r=0.609,p<0.05)、DBP(r=0.646,p<0.05)の有意な負の相関がみられ、また筋肉中のアクチン、ミオシンに結合して存在し動物性蛋白摂取量の指標となる3メチルヒスチジンを尿中クレアチニンで除した量とSBP(r=0.641,p<0.05)、DBP(r=0.6641,p<0.05)の間にも有意な負の相関が認められた。 また1990年にブラジル南リオグランデ州の日系人およびブラジル人の調査を行ない、島根県内の3地域(都市郡、山間部、漁村部)の集団と比較検討した。 日系人(24.7±1.8)の肥満度(Kg/m^2)はブラジル人(27.0±3.3)に次いで高く、日本の3地域(23以下)と有意な差があった。高血圧罹患者はブラジる人で45.8%、日系人で41.2%であり、日本人(25ー33%)に比べ多くみられた。総コレステロ-ル値では差はなかったが、冠動脈危険因子は、ブラジル人、日系人でより高かった。 尿中食塩排泄量(g/day)では、男女とも日系人(14.0±3.8,12.7±5.6)が最も多く。ブラジル人(12.7±7.2,10.6±4.7)、山間部の日本人(11.8±3.7,10.6±3.2)より多かった。尿中タウリン排泄量は、魚摂照量を反映して、ブラジル人が最も低く、日系人はブラジル人の1.5倍、日本人はブラジル人の3倍以上であり、漁村部が5倍と最も多かった。逆に動物性蛋白質摂取量を反映する3メチルヒスチジンでは、ブラジル人と日系人は、日本人の1.5ー2倍と高く、肉摂取量の多さを反映する結果となった。 以上の結果から血圧に対しては、食塩の有害性、蛋白質摂取の有効性が確認され、冠動脈疾患に対しては、過剰なエネルギ-摂取、多量の食塩摂取の食生活が危険因子となっている可能性が示唆された。さらに日中両国の中でも循環器疾患の危険因子の少ない代表的地域であった広州の田園地帯が急激な経済発展と共に高血圧罹患率、肥満度の増加、尿中タウリンの減少は日本人とブラジル人の比較においても同様の傾向が見られ、日中料国民における食生活の欧米化などの変化が循環器疾患と危険因子を増悪化させること、今後の日中両国の循環器疾患の予防に食生活の重要性を示した。
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