食品および人体組織中の組織結合型Tと自由水中Tの定量を行うことにより、環境から人体への核実験起源トリチウム(T)の移行を研究した。食品、人体中の組織結合型Tと自由水中Tの比放射能の比は線量評価上重要な因子の一つであるが、これまで実環境での報告例が少なく、かつ異常とも言える高い値が欧米で発表されていた。本研究の結果では、秋田市における食品試料、人体組織試料中の比放射能の比は1に近く、欧米で報告されているような高い値は認められなかった。今回、新たに定量した食品試料は、'86年6-7月に秋田市内で食品群別に採取したものである。さらに、5月に採取した日常食試料も比較のために分析した。人体組織試料は'86年の1-7月に秋田県内で死亡した対象より得た。試料は凍結乾燥によって自由水を採取し、乾燥試料の燃焼によって組織結合型T測定用試料水を得ている。測定の結果、脳、肝、肺で自由水中のT濃度はほぼ同様であり、組織結合型Tの比放射能は自由水中の1.1倍であった。食品試料の結果は、日本人の水摂取率2.5L/日と仮定し、食品以外からの水摂取は飲料水によるとしてまとめた。飲料水中のT濃度は月毎に採取している水道水中のT濃度を用い、食品の採取期間の平均値を当てた。その結果、食品群別に採取した試料と日常食試料の分析値はよく一致し、これまでに発表したデータも含めて考慮すると、'85年から'86年の食事中T濃度はほぼ一定していると言えた。組織結合型Tの平均比放射能は自由水中の1.2倍であった。人体組織中のT濃度は飲料水を含む食事中のT濃度とほぼ同様であった。これらの結果は欧米で発表されているデータと異なり、実験動植物を用いた結果と矛盾しないものであった。今後は、クロスチェック等も含めた分析方法の検討とともに、食品試料等では組織結合型Tの比放射能が自由水中Tに比較してなぜ高いのかを検討したい。
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