研究概要 |
ヒスタミン神経系の細胞体は視床下部後部の結節乳頭核に限局して存在し,神経線維を脳内のほぼ全領域に投射している。このような分布から脳内ヒスタミン神経系は特殊で個別的な機能ではなく,全般的,あるいは基礎的な神経機能に深い関連を有するものと考えられる。本研究では中枢神経系におけるヒスタミン神経系の生理機能は何かという問題を1.形態的アプロ-チ(ヒスタミン神経系の分布の詳細マッピング,系統発生学的検討,化学的神経回路網の解明,PETによる受容体分布の可視化,in situ hybridization),2.神経薬理学・神経生理学的アプロ-チ(視床下部切片を用いたin vitroおよび脳透析法を用いたin vivoでの神経終末からのヒスタミン遊離制御機構の解明,概日リズム・神経内分泌・摂食行動・体温制御・老化・自発行動・鬱病・痙攣・動揺病におけるヒスタミンの生理的および病態生理的意義),3.神経化学・細胞生物学的アプロ-チ(ヒスタミン合成と遊離の調節機構,ヒスタミン受容体の薬理学的特性,初代培養星状膠細胞における受容体の発現と細胞内情報伝達機構の解明)および4.分子生物学的アプロ-チ(ヒスタミンH1ー受容体、ヒスチジン脱炭酸酵素,ヒスタミンNーメチル基転移酵素,ド-パ脱炭酸酵素のクロ-ニングと発現)により追求した.その結果,ヒスタミンは系統発生学的によく保存された神経系であり,脳内で神経細胞みならず星状膠細胞や脳血管系をその標的とし,脳全体の活動レベルを調節していることが明らかとなった。本研究では脳における一つの伝達物質としてのヒスタミンの機能を明らかにすることを目的としたが,この研究によって,情報伝達受容機構一般の知見を深めることもできた.
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