研究課題
従来主題に論じられることがほとんどなかった他我問題に関して、昭和63年度における研究は、主としてそれを取り扱う際の基本的な視座・方法の確立を目標にして行われた。そこでの確認に立って、本年度は各研究分担者が専門分野に応じてそれぞれの研究を深化させている。このうち篠は本年度第1回合宿での「垂直的可知性にむかって--メルロ=ポンティのシモン覚書から」と題した発表において、他我を含めた世界総体の根源的開けの場としての身体ないし知覚の意義を、具体的な文学的テキストの解釈をとおして浮き彫りにしてみせた。また同合宿において上妻は、カント、フィヒテ、ヘ-ゲルらの陰に隠れて従来論じられることの少なかったヤコ-ビに焦点を合わせ、我と汝との直接的交わりの意義を論理的推論等の理性的活動に先立つ人間の根源的体験として称揚する彼の論点を取り上げて論じた。本年場は諸般の都合により第2回の合宿は本報告書提出後(3月末)の開催となるが、そこでは岩田靖夫、黒崎宏の両名が、それぞれ「ハイデガ-のロゴス--アリストテレスの『形而上学』の注釈によせて--」、「他者論と他我論」という題目のもとに研究発表を行う予定である。この合宿においては昨年度来の懸案である、自他の等根源性(語用論的アプロ-チからすれば自他の非対称性はつまるところ言語行為における機能的な異種性にすぎない)と自他の異質性(まさにその都度言葉に耳を傾け言葉を発するほかないこの私の固有性)という二つの事態調停をめぐる問題についても、踏み込んだ発表・討論が行われる予定である。
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