研究課題
1.金剛峯寺蔵の中尊寺経4296巻のうち、780余巻について調査・撮影を実施した。(1)各巻の表紙・見返・巻末は6×12サイズでカラ-・モノクロ撮影を実施した。(2)250余巻の全巻マイクロ撮影を実施した。(3)各巻毎の調書を作成し、見返絵の形態およびモチ-フ分類を行いつつ、絵画史・書道史・仏教学各分野からの検討を加えた。2.各巻に関する調査デ-タをパ-ソナルコンピュ-タ(PC9801CV21)に入力しデ-タの蓄積を行った。3.調査は高野山霊宝館にて行った。4.調査デ-タを整理し、各分野から検討を加えた結果以下のような知見が得られた。(1)料紙は紙繊維サンプルの分析により、楮紙であることが判明した。(2)表紙と見返は基本的に同一画師が手がけており、十巻を単位として分担が変わるのが大勢である。(3)最も早い時期の径典は華厳部であり、華厳部経典には開始早々の意図の不統一から来る混乱が認められる。(4)見返絵の画題は、釈迦説法図を中心とするが、それ以外の画題も40件弱認められる。これらは必ずしもその経典の経意を表わしたものではなく、法華経の経意絵がかなり転用されている。(5)従来知られている墨書のみならず、大般若経巻416前後の経巻から草名らしき墨書を多数発見した。(6)経本文について、従来より宋版一切経を底本に用いたとされていたが、華厳部経典などは唐代のテキストの系統を引いていることが確認された。