研究課題
総合研究(A)
高野山金剛峯寺所蔵になる藤原清衡(1056〜1128)発願の紺紙金銀交書一切経。通称『中尊寺経』4296巻のうち、1226巻と未指定1巻について各々写真撮影と次のような調査を実施した。外題・首題・尾題の調査、見返し絵の図様の調査、各紙の法量及び界高・界巾の調査、料紙及び文字色と奥書の、各調査によって下記の知見を得た。<料紙>紺紙を使用しているが、その紙色には濃淡が見られる。紙質に関しては、既に剥離していた小断片を分析した結果、楮紙であることが確認された。<表紙>金銀泥で宝相華唐草文が描かれ、匡郭の中に金字一筆の外題がある。宝相華の文様は、緻密で製作時期がある程度特定できる平安時代後期の代表的文様と位置づけられる。<見返し>金銀泥で見返し絵が描かれており、その図様は釈迦説法図を中心に経意絵のようなものや風俗図的な見返し絵など種々変化のある図様が確認された。平安時代後期のまとまった絵画群として実に重要。<文字色>首題は金字、尾題も金字でまま銀字のものもあり、本文の書き出しの行は大半が銀字、金字もある。<巻紐・軸>巻紐はほとんどが後補であるが、軸は当初のものが多く、杉棒軸の両端に撥型の軸端があり、各々に毛彫り文様がある。<料紙の墨書>八十巻『華厳経』巻第16(本文銀字)、六十巻『華厳経』巻第16(本文金銀交書)及び八十巻『華厳経』巻第22の紙背より、仮名の墨書を確認した。更に『大般若経』巻第416の前後より華名らしき墨書を多数発見した。<本文>従来より宋版を底本に用いたとされるが、『華厳経』などは唐代のテキストの系統を引いていることが確認された。