研究課題
本年度は討論の題材を東南アジア・オセアニア以外に日本にまで拡大し、特に大衆芸能と国家形成の問題について様々な討議が行われた。主要な論点の一つは、文化人類学的な議論の蓄積のある伝統的な文化装置(例えば儀礼)を分析する枠組みでいわゆる芸能が分析出来るかという問題である。大衆芸能が背景とする社会は、かつての人類学が安心して寄り掛かってきたような、文化的に均一な共同体ではない。その事は芸能の受容自身が個人単位に微分化し、必ずしも文化的な用語では明快に分析出来ないという困難をもたらす事になる。さらに芸能には、機械的形式的な行為である儀礼等と異なり、そこに観客の視線ないしは評価が存在し、その事が「芸」という、人類学的に翻案しにくいが、しかしある意味で芸能という形態の陰の支えとなっている概念に独特な重要性を与える事になる。そこでこの「芸」概念と、芸能の微分化された個人的受容の間を論理的にどう結ぶかが、重要な課題として意識されるようになった。もうひとつの重要な論点は、こうした大衆芸能と国家の問題を直接的に結びつけられるかという事である。地域レベルで既に存在している大衆芸能を、その地域を越えた範囲に昇華する場合、例えば日本のように基本的には文化的的連続性で支えられている場合と、例えばインドネシアのように、国家レベルと地方レベルで文化的に大きく異なる場合では、芸能と国家といってもその関連づけの論理に大きな差違が生じる。又国家の意図的な芸能管理の形態も、単に様々な地方芸能を政府のきも入りで紹介するのか、それとも地方言語を含めた芸能の形態を国家単位で流通する形式に積極的に変形して国家のシンボル化するかでは話しが異なるのである。そして東南アジア・オセアニアでも国家によってこの両方の側面が政策的な差異として現れてくる事が比較を通じて明らかになった。
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