本研究は、金属・絶縁体極薄膜多層構造を用いた超高速応答可能な三端子素子を実現するための基礎研究として、金属・絶縁体極薄膜および超格子による人工半導体を試作し、その物性に関する学問的基礎を確立すること、およびこれを用いたデバイスの基礎特性を明らかにすることを目的として行い、以下に述べる成果を得た。 金属・絶縁体極薄膜積層構造を用いる三端子電子デバイスとして、金属と絶縁体界面の急峻なポテンシャル差によって生じる電子波の干渉効果を利用したデバイスを提案し、小さな動作電流密度でもTHz程度の応答速度が可能なことを理論的に示した。また、金属・絶縁体超格子のエネルギ-バンド構造を、理論的に明らかにした。 金属・絶縁体結晶材料として、シリコン基板に格子定数が近いコバルトシリサイド(CoSi_2)および弗化カリシウム(CaF_2)を選び、イオン化クラスタビ-ム結晶成長法を用いて、シリコン基板上に極薄膜単結晶層を成長した。絶縁体上では凝集が起こりやすく薄膜単結晶成長が通常極めて困難なコバルトシリサイドに対して、シリコンとコバルトに二段階成長、シリコンビ-ムのイオン化加速、コバルトの固相拡散を駆使することにより、厚さ数ナノメ-トルの平担な単結晶極薄層を得る成長法を確立した。この方法を用いて平担で結晶性のよい金属・絶縁体超格子の成長を達成した。 三端子デバイス形成に必要な、金属・絶縁体多重層の選択化学エッチング条件を明らかにし、これを用いて金属・絶縁体多層構造中の金属層の電気抵抗を測定し、厚さ2ナノメ-トルの極薄層においても抵抗率70μΩcmと小さく、超高速電子デバイスに有望であるこてを示した。 以上の成果によリ、金属・絶縁体極薄膜多過構造を用いた超高速電子デバイスの可能性が示され、実現に必要不可欠な基礎的知見が得られた。
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