前年度までの報告に述べたように、磁気異方性測定装置を用いた実験と磁気天秤を用いた定量化によって、γーFe粒子のγ→αマルテンサイト変態に及ぼす磁場効果とFe_<16>N_2析出物の一軸磁気異方性について有益な知見が得られ、本年度はデ-タの解析と追加実験による以前の結果の確認等を行った。それらを要約して述べる。 〈Fe粒子の磁気異方性〉 γ→α変態したFe粒子は強磁性であり、立方晶型の磁気異方性を持つ。また、これらの粒子は母相の面心立方晶と特定の方位関係を有し、一軸応力下で変態した場合は結晶学的に等価なもののうち特定バリアントが優先発生する。従って、単結晶を用いて測定したトルクカ-ブと発生したバリアントから予測されるカ-ブを合致させるべくパラメ-タ-を決定すれば、ある程度定量的にそれぞれの方位の変態量を決定できる。また、さらにαーFe粒子を時効すると〈110〉方向に優先生長するので、形状磁気異方性についても知見を得ることができ、巨視的測定によってαーFe粒子の形状を推測することにも成功した。 〈Fe_<16>N_2の核生成〉 磁気異方性の測定を時効初期に時効と平行して行うことにより、析出初期における未発達な窒素のクラスタ-についての知見を得ることができ、トルク曲線とクラスタ-のもつ磁気異方性とのカ-ブフィッティングにより、Fe_<16>N_2の核形成前には〈001〉一軸異方性が達成されていないということを見出し、また時効に伴うFe_<16>N_2への移行についても有益な情報を得ることができた。 〈オ-ステナイト鋼のマルテンサイト変態に対する磁場効果〉 FeーCrーNiを用いた実験を新たに試みたが、磁場効果のないことが判明し、γ→α変態が直接起こることはないと結論した。
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