分散強化合金の高温における強化機構は粒子間での転位の張り出しを考えるOrowan機構によるとするものが確証のないままに定説化している。本研究は拡散が活発となる高温では転位と粒子の相互作用は引力型で、運動転位は粒子に引きつけられると考えることの合理性を基盤としたもので、転位のglide motionに対する粒子の抵抗は相互作用を反撥型と考えても、引力型と考えても大きな差異は生じないが、climb motionに注目するとOrowanモデルでは促進、引力型では大きな遅滞となり、回復過程に大きな差異は生じることになる。このことが高温における強化機構の本質であることを実証することを目指している。昭和63年度は本研究の第一年度で単結晶分散強化合金試料の作成と精密型速度急変引張装置の調整を中心に研究を実施した。 単結晶分散強化合金の作成は直径30mmのCu-Si合金をブリッジマン法により単結晶化し、この丸棒より厚さ1.2mmの板状試料を無ひずみで切り出し、Al_2O_3+Cu_2O+Cu粉末中で1073〜1273Kに加熱し内部酸化を行なった。試料の組織観察で試料中心部に転位が導入され、亜粒界が形成される予期しない結果が見られた。この原因の検討の結果、内部酸化により、体積膨脹が生じるため表層からの内部酸化により試料中心部に引張変形が生じるためと結論され、本研究の主題ではないが新知見として日本金属学会春期大会('89)で報告する。 速度急変型引張試験装置については島津サーボパルサーED05形をベースに特殊仕様のサーボバルブを持ち油圧式サーボ機構と機械式サーボ機構とを具えた装置を製作し、現在精密調整が修了し、実験手法確立のための予備実験を進めている。なお、平行して、高温引張試験も進められている。
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