S-S結合欠損リゾチーム(天然リゾチームのS-S結合を還元後、トリメチルアミノプロピル基でSH基をブロックしたもの)を用いて、この分子の部分秩序構造形成の有無について研究した。この分子の溶液の温度を2℃に保って、トリプシンによる限定分解反応を行い、分解生成物のHPLC(高速液体クロマト)による逆相クロマトグラフィ(ペプチドマップ)を測定し、トリプシン分解時間によるマップの変化を調べた。まずトリプシンによる最終分解生成物のマップをとって、大阪大学・蛋白質研究所の相本三郎博士のところでアミノ酸分析をしていただき、ペプチドマップのそれぞれのピークがリゾチーム分子のどのペプチド断片鎖に相当するかを決定した。つぎに分解反応の中間生成物をペプチドマップ上で同定し、それを分離・精製して、トリプシンによる再分解反応を行い、最終生成物と比較することによって、中間生成物がどのペプチド断片鎖から構成されているのか知ることが出来る。このような実験から、リゾチーム分子のArg5とArg68残基のC端側ペプチド結合の加水分解反応速度が他に比べ著しく遅いことを、またArg14、Arg73残基のそれが速いという事実を見出した。また、予備的な実験結果は限定分解反応の中間生成物が残基15から残基73までのペプチド断片鎖であることを示唆している。さらに詳しい実験を必要とするが興味深い実験結果である。さらに低温の領域で、同様のペプチドマップを調べている。本研究費の交付決定が昨年の11月であったため、円偏光2色性(CD)の測定による十分な研究成果はまだないが、天然リゾチームとS-S結合欠損リゾチームのCDスペクトルを測定した。後者のスペクトルはランダムコイル鎖のスペクトルに近い。現在、温度変化、溶媒添加物変化をしてCDスペクトルを測定している。今後はトリプシン限定分解生成物のCDスペクトルも測定していく予定である。
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