蛋白質の立体構造は、いくつかの部分構造があらかじめ正しく折りたたまれた後、それをさらに折りたたんで最終的な立体構造にたどり着くと考えられている。リゾチ-ムは4本のSーS結合を持つ安定な蛋白質であるが、そのSーS結合を失うとその立体構造を保つことが出来ない。しかし、そのようなコイル状態においても、短いペプチド鎖の範囲内で働く短距離相互作用によって決る局所的にとりやすい部分構造が形成されていると期待される。そのような局所秩序構造を見いだし、その部分構造の位置を同定することが出来れば、蛋白質の折りたたみ反応の機構を考察する上で貴重な情報となるであろう。 我々は、Sー3ートリメチルアミノプロピル化リゾチ-ム(TMAPーリゾチ-ムと呼ぶ)を用いて実験を行った。TMAPーリゾチ-ムの190ー260nm領域の円二色性スペクトルを塩酸グアニジンやソルビト-ルを含む水溶液中で測定した。その結果、塩酸グアニジンはTMAPーリゾチ-ムの構造をさらにランダムコイルに近付け、ソルビト-ルは逆に部分的な2次構造を増加させることが見出された。TMAPーリゾチ-ムの局所秩序構造を考察する目的で、トリプシンによるその限定加水分解反応を行った。すべての分解反応最終生成物をアミノ酸組成分析によって同定し、逆相液体クロマトグラフ上のピ-クとの対応関係を決定した。次に、ピ-クの面積を反応時間に対してプロットして、最終生成物の生成反応のキネティックスを観測した。また、限定分解反応の途中、8つの中間生成物が現れることを見いだし、その中間生成物の組成を全て明らかにすることが出来た。また、中間生成物の生成と分解反応のキネティックスも観測した。これらの実験結果から、TMAPーリゾチ-ムの全ての分解反応部位における反応の速度定数が決定された。その結果、トリプシンに対して抵抗性の高い分解部位はTMAPーリゾチ-ムのN末端側の半分に集中しており、逆にC末端側はトリプシン感受性の高いことが明らかになった。
|