分子ビームを用いて、表面反応の機構を明らかにする目的で、今年度はシリコン単結晶表面とアセチレンガスの反応によるシリコンカーバイド膜の生成反応について研究した。シリコン表面は超高真空下で加熱によって清浄化し、800℃以上の表面温度のところに、種々のフラックスのアセチレンビームを照射した。気相に放出される生成物は質量分析計を用いて調べたが、反射アセチレン以外には水素が主なものである。シリコン表面にできた反応生成物は、オージェ電子分光、赤外線吸収分光、レーザラマン分光、X線回折、電子線回折によって、シリコンカーバイドであることが確認された。 シリコンカーバイド膜の成長速度は、反応後にアルゴンイオンスパッタリングで表面を削りながら、オージェ電子分光法でシリコンとカーボンの存在比を測定して決定した。膜厚成長から求めた反応確率は、入射ビームのフラックスが低い場合はほぼ一定であるが、それが高くなると低下する。生成膜の形態は走査型電子顕微鏡で観測した。その形態はビームフラックスによって著しく変っている。極低フラックスでは、表面上にまばらな結晶粒の像が得られ、フラックスが少し増すと、表面全体にタイルを敷きつめたちうな微結晶が成長し、エピタキシャル成長が起っているようにみえる。それは電子線回折からも裏付けられる。それに対して、フラックスが非常に大きくなると、表面にはクレータ状の無数の欠陥をもつ無定形の膜になる。この状態では、膜の成長はきわめて遅くなる。成長後の最上層部の元素組成をみると、低フラックス入射の場合には、表面にシリコン原子が多くあり、入射分子数が律速になっているとみられる。それに対して、高フラックス入射では表面に炭素原子が多く、シリコン原子の内部から表面への拡散が律速であると考えられる。今後は他の表面反応についてもさらに詳しく研究する予定である。
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