本研究においては、NMRを用いて、免疫グロブリンの認識部位の構築原理を解明し、これによって、抗原結合部位の示す生物活性をコントロ-ルするための一般原理を確立することを目指して研究を行い、以下のような成果を得た。1)安定同位体で選択的に標識したアミノ酸を抗体分子に効率よく取込ませるため、無血清条件下で抗体産生細胞を培養するためのシステムを確立し、2)^2Hおよび^<13>Cで選択的に標識抗体を調製し、選択的NMRプロ-ブを用いる高次構造解析を行った。 抗原結合部位は、H鎖のV_H、L鎖のV_Lの2個のドメインによって構成されている。V_H、V_Lに続くC領域が、抗原結合部位の構築にどのような役割を果たしているかを解析することは、抗体分子工学の今後の発展にとって必須である。これまでの研究によって、生体防御システムの中核をなす抗体分子について、タンパク質の高次構造の視点に立って解析するための戦略を確立し得たと考えている。今後は、抗体による特異的認識応答機能の解析をさらに進め、異なる機能を有する複数のドメインが集って、どのようにして最適の生物活性発現を行っているかについて研究し、単に酵素反応にとどまらず、多様な化学反応の場として抗原結合部位を、謂わば「保護的環境」として広く用いるための基礎的研究を発展させ、これをもとに抗体の分子設計を目指したい。
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