ハンチントン病は常染色体性優性遺伝する神経変性疾患として知られているが、欧米諸国に比して本邦ではその頻度が著しく低いことから、遺伝的に異なる疾患の疑いが持たれていた。一方、米国のGusellaらにより遺伝子連鎖により本症の遺伝子座が第4染色体短腕先端部にあることがわかり、DNAプロ-ブを我々も用いることができるようになった。そこでまず63年度は、本邦におけるハンチントン病家系を対象に遺伝子連鎖を検討し、D4S10ロ-カスとはおおよそ10cM離れているが、D4S43ロ-カスとは組み換え体がないことを見出した。しかしながら、こうしたDNAプロ-ブとの遺伝子連鎖の研究によってはなかなか本症の異常遺伝子情報の本態には到達できない。そこで平成元年度には農水省生物資源研の池田室長の開発したレ-ザ-式クロモソ-ムダイセクタ-によりヒト第4染色体短腕先端部から巨大ゲノムDNAを採取し、ここから新しいDNAプロ-ブを作成することを計画した。現在までのところ第4染色体短腕先端部のDNAを回収するところまでは成功した。一方、我々はラット脳のmRNAが予想以上に死後安定であることを確認しており、正常ヒト線条体からも良質のmRNAを採取し、cDNAライブラリ-を作成した。このライブラリ-の中からこれから作る新しいDNAプロ-ブを用いてハイブリダイズするものを選択することにしている。このものは、遺伝子座を第4染色体短腕先端部にもち、線条体で実際に発現しているタンパクをコ-ドするDNA塩基配列であるところから、ハンチントン病の発症にかかわる遺伝情報である可能性があることになる。ここまで明らかになれば、そのDNAプロ-ブにより連鎖不平衡を検索する。あるいは一部の塩基配列を決定しペプチドを合成し抗体を作成する、という実際的な段階に入ることになる。
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