研究概要 |
本年度は先ず脳組織切片におけるシナプス活動と細胞内Ca2+の同時測定手法を確立し、低酸素による神経細胞死には、細胞内Ca2+の過剰な上昇が関与することを示した。さたに、マウスを用い、海馬に脳損傷を負荷し、損傷3日,7日,14日後に海馬切片を作製して低酸素・無グルコ-ス負荷による海馬切片細胞内遊離Ca2+濃度の変化を検策し、損傷部近位と遠位について比較した。細胞内遊離Ca2+測定には蛍光性Ca2+指示薬furaー2を用いた。頭皮切開のみで損傷を受けていない海馬では切片のCA1領域錐体細胞層の端から150,300,450,600,750,900μm離れた位置および各々に隣接する起始層と放射層に50μm×50μmのウインドウを設定し、また、損傷を受けた海馬切片では損傷部からCA3側に150,300,450μm離れた位置および反対側に150,300μm離れた位置の各層について、Sham群と同様なウインドウを設定して細胞内Ca2+濃度変化を測定した。損傷を受けていない海馬切片の低酸素・無グルコ-ス負荷10分による負荷前に対する細胞内遊離Ca2+濃度の上昇は各層ともウインドウの位置による差異はないのに対し、損傷海馬では損傷後3日と7日で損傷部近位で細胞内遊離Ca2+濃度の上昇が遠位より小さいことが示された。また、損傷後3日群では有意ではないものの損傷部のCA3と反対方向で細胞内遊離Ca2+濃度の上昇が抑制された。損傷後14日では損傷部との遠近による細胞内遊離Ca2+濃度上昇に有意の差は認められなかった。以上の結果は、海馬損傷後、3日と7日では損傷部近位では遠位に比べ、抵酸素・無グルコ-スに対する低抗性がを高まっていること、すなわち、損傷部位から何らかの抗虚血因子が生成し細胞内Ca2+の上昇を抑制することを示唆する。また、損傷によるShaeffer側枝など神経繊維の切断がその遠位における細胞内遊離Ca2+濃度上昇の抑制に関与していることが考えられる。
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