尿路感染症の発症、継続には種々の要因が関連している事を、縮主側と細菌側の立場から明らかとしてきたが、この両者は互いに影響し合う事によっても各々変化を生じ、その結果として種々の病態を呈している事が考えられる。今回我々はこの点に注目し、尿をとり巻く環境が異なる場合の細菌や尿の変化について研究をすすめた。対象として、残尿の常在する神経因性膀胱の患者と、腸を用いて膀胱拡大術或は代用膀胱を作製した為に残尿を有する患者を用いた。 細菌相では、腸管を用いた膀胱を有する場合、本来の膀胱のみの場合に比してStr.属、Providencia属及びE.fecalisの分離頻度が高く、Pseudomonas、Proteus、及びSerratiaの分離頻度が低下する事が特徴的であった。 尿の変化では、腸管を用いた膀胱よりの尿は、一般にpHが上昇しており、又浸透圧は200〜500と血漿浸透圧により近づく傾向がみられた。又局所免疫の代表と言える、分泌型IgAについて、EIAを用いて測定した結果、腸管を用いた膀胱尿において、明らかに尿中IgAレベルが上昇している事が確認された。これに対し、尿中に出現する白血球数は、むしろ減少する傾向が認められた。しかもこれらの変化は、尿中の細菌数や術後経過年数にあまり影響されなかった。 調べ得た尿の変化は、実際に生じている尿変化のごく一部のものと考えられるが、この変化によって細菌相の変化が生じ、そしてその細菌相の変化により、常の尿路感染に対する反応とはやや異なった反応が生体に生じている事が考えられる。その一部が細菌の割には少ない尿中白血球という型で表わされているのであろう。この様な、膀胱を形成している粘膜の変化に起因する感染病態の変化は、感染に対する反応の個人差と結びつけて考え得る一つの方向と思われ、更に詳細に枝付をすすめる予定である。
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