膀胱の感染防御機構として、膀胱上皮の働き、膀胱壁内及び尿中白血球の働きについて既に明かにしたが、膀胱の感染防御の研究は、膀胱炎発症の条件を明らかにすることでもある。そこで今回は膀胱炎発症の第一歩である細菌の付着を許す上皮側の条件と尿中微量物質を検討し、更に腸管利用尿路の感染症の特徴を明かにして通常の尿路感染症との相違から膀胱の感染防御機構を明かにする事を試みた。(1)尿中mannoseの感染防御における役割;I型線毛に対するreceptorであるmannoseを健常人尿と膀胱炎尿で測定した。両者とも微量ながらmannoseが検出され、このmannose量はI型線毛を介する細菌の粘膜付着を阻止するのに充分であった。(2)細菌receptorとしての尿路上皮複合糖質の検討;ヒト膀胱上皮由来培養細胞(HCV/29)より、酸性糖脂質ではG_<M1>、G_<M2>、G_<M3>、upper phaseの中性糖脂質ではCTH、globoside、lower phaseではCMH、CDH、CTH、globoside等が同定された。HPーTLC上に展開したこれらの糖脂質のbandへR1でラベルしたE.coliの付着実験を行い、receptor物質を明かにせんと試みたが、現在特定の物質を同定できていない。(3)膀胱の過伸展による上皮の変化;ラット膀胱を過伸展すると表層細胞の膨化や脱落、中間細胞の露出が認められ、この様な変化は過伸展解除24時間後の膀胱でも僅かに見られた。表層細胞の脱落部には、細菌の付着と侵入が容易に起こり、膀胱炎発症を来たすと考えられる。(4)腸管利用尿路の感染症の特徴;通常の尿路感染症とは分離菌種に差が見られた。両者の尿中での各種細菌の増殖性には差がなく、菌種の違いは細菌の付着性の違いによる所が大きいと考えられた。また腸管尿路では好酸球の遊出が多いが、感染が生じると好中球が増加し感染防御に主役を果たす。この際IgG濃度が好中球の貧食能と相関し、オプソニン作用を持つことが示された。
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