この研究では、咀嚼運動の神経性制御機構を解明することを目的として、顎口腔系の感覚入力系について形態学的に検索した。この研究期間中に新たにえられた所見は以下の通りである。 1.ヒト歯髄には神経系の成長、発育に重要な役割な役割を果たしている神経成長因子に対する受容体(NGFR)が多数存在することが明かとなった。象牙前質および象牙質に分布する神経を含め、ほとんどすべての歯髄神経がNGFR免疫活性を示した。免疫電顕法では、NGFRは無髄神経の軸索およびシュワン細胞の細胞膜に局在していた。 2.咀嚼運動を神経制御するために重要な役割を果たしている歯根膜機械受容器として、発達の程度に動物種、歯種はあるものの、膠原線維の伸展受容器である Ruffini 神経終末が必須のものであることが示された。また、歯根膜 Ruffini 神経終末には特殊なシュワン細胞が発達し、この細胞が常に咬合力を受けるという過酷な条件下で Ruffini 神経終末の支持、栄養を行なうとともに活発な蛋白合成能を有し歯根膜感覚発現に重要な役割を担っていることが明かとなった。 3.実験的に歯髄に外的刺激を与えたり、歯牙を矯正移動させると、歯髄、歯根膜神経は刺激に対してその分布構築および形態を変化させた。従来、神経線維は静的構造物と考えられてきたが、神経線維は周囲組織の改造現象に対応してその分布構築および形態を変化させ、周囲組織に対し密接な機能的連関を示した。 4.顎関節には生理学的には様々な特殊な神経終末が存在するといわれているが、形態学的には特殊神経終末は認められず、すべて自由神経終末であった。
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