研究課題
人弗素症歯本態解明のため、その琺瑯質を種々の方法によって検索しているが、本年度は特に透過型高分解能電子顕微鏡観察に勢力を注いだので、その概要を記す。人弗素症歯歯頸部の表層琺瑯質は、比較的高い石灰化度(高石灰化層)を示し、その直下に石灰化度の極めて低い領域(低石灰化層)を伴っている。深層および咬頭部琺瑯質の石灰化度は一様である。高石灰化層は大型結晶と小型結晶とが密に配列している。大型結晶は扁平六角形の外形を示し、その中心にいわゆるcentral-dark-lineを現わすものが多い。またその辺縁には台形ないし不規則な形の隆起や、既存の大型結晶の成長像がしばしば観察される。不規則な結晶隆起と大型結晶の融合部では、両結晶の結晶格子が互いに正しく連結しているものもあるが、1/3格子づつずれて連結している例も少なくない。大型結晶(001)面の面間隔は8.17Åである。小型結晶の外形も基本的に六角形であるが、それらの多くは不正ないし正六角形で、大型結晶のごとき扁平六角形なものは少なく、central-dark-lineも認められない。小型結晶(001)面の面間隔は8.12Åである。低石灰化層は、扁平六角形の外形を示す比較的大型の結晶が鬆疎に配列し、小型結晶はほとんで認められない。扁平六角形の結晶の大きさは高石灰化層のものよりも小さく、結晶中央に大きな穿孔を認めるものや結晶表面に欠損を伴うものなども認められる。そのような場合、結晶の溶解は1単位胞ずつ行なわれている。高・低両石灰化層の移行部では、大型結晶および小型結晶が観察されるが、小型結晶の数は高石灰化層に比べ少ない。また大型結晶のあるものは、結晶中央の穿孔部あるいは結晶表面に形成された欠損部に不規則な形の小結晶を沈着させているものもある。この場合、小結晶と大型結晶の融合部では格子の彎曲やずれがしばしば観察される。
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