人弗素症歯の本体解明のため、人とブタの弗素症歯琺瑯質を種々の方法で検索し、比較観察を行った。 人弗素症歯には種々の程度の減形成と白濁が観察された。ブタでは欠損は認められなかったが、白濁は広範囲にわたっていた。いずれの弗素症歯も最表層は高石灰化層であり、その下層は低石灰化層となっていた。高石灰化層は大型結晶と小型結晶から成り、人の大型結晶の場合、扁平な六角形の外形を示し、中央にcentral dark line(CDL)を有し、辺縁には不規則な形の隆起や結晶成長像が観察された。これらの融合部では結晶格子が互いに正しく連結しているものもあるが、1/3格子づつずれて連結している例も少なくなかった。またその結晶(100)面の格子間隔は8.17Aであった。小型結晶は正または不正六角形の外形を示し、CDLは見られず格子間隔は8.12Aであった。ブタでも大型結晶と小型結晶が見られたが、人の場合の比べると結晶の配列はやや疎で小型結晶も少なかった。格子間隔の測定結果は、いずれも大型結晶がhydroxyーapatite、小型結晶がfluorapatiteであることを示していた。低石灰化層では高石灰化層で見られたのと同様の大型結晶が疎に分布しているが、小型結晶はほとんど認められなかった。人の場合大型結晶は高石灰化層のものよりやや小さく、時にその中央に穿孔を伴うものや、結晶表面に欠損を伴うものも認められた。しかしながらブタではこのような結晶は観察されなかった。高・低両石灰化層の移行部では、大型結晶と小型結晶が共に認められ、人では結晶中央の穿孔部あるいは結晶辺縁の欠損部にその修復像がしばしば観察され、その部では格子の彎曲やずれがしばしば認められた。微小部元素分析では、最表層部は弗素を高濃度に含み、X線回折では結晶格子間隔が水酸アパタイトのそれよりわずかに高角度に移動していた。低石灰化層には弗素はほとんど含まれていなかった。
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