研究概要 |
炎症状態に陥った歯髄は,歯科臨床において頻繁に認められる病態である。本研究は,この炎症歯髄についてその重要な徴候である痛みを直接の解析対象とした機能面からの検索を行った。 1.須田は臨床的研究を担当し,炎症歯髄に対する効果的に局所麻酔する方法について検討を加えた。すなわち,下顎大臼歯部の効果的な麻酔法を具体的に提示した。下顎大臼歯部は,その解剖学的な特徴から頬側の皮質骨が厚く,根尖相当部の頬粘膜下に傍骨膜浸潤注射法により麻酔薬を注入したとしても,十分な効果は得られにくい部位であるため,舌側への骨膜下注射法による麻酔薬の注入を行った。第1大臼歯では,頬側に2.7ml,舌側に0.9ml,また第2大臼歯では頬側舌側ともに1.8mlを上記の方法で投与した。麻酔効果は電気歯髄診断器により判定したが,追加投与を行った6例を含めて45例中44例において有効と判定された。 2.砂川は炎症歯髄に関する中枢神経系の基礎的研究を担当し,下歯槽神経駆動性頚髄ニュ-ロンの応答特性を解析した。Fーtypeニュ-ロン,Sーtypeニュ-ロンともに,頚髄から視床への投射性のものが同定された。また,大脳皮質においても歯髄駆動ニュ-ロンが見いだされ,顎顔面領域の種々の組織からの入力が収束していることが確認された。 3.池田は炎症歯髄に関する末梢神経系の基礎的研究を担当し,炎症状態に陥った歯髄内ではまず歯髄神経に過敏化が生じて主に有髄神経線維に由来する痛みが生じ,有害刺激がさらに持続して加わっていると今度は有髄神経線維の興奮性が低下するのに対し,無髄神経線維は興奮性を維持して痛覚伝達に主要な役割を演じていることが確認された。
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