研究概要 |
この研究は,研究代表者らが提唱して来た,生体防御蛋白の持つ二重機能性を実証しようとしたものである。これまでに,センチニクバエの生体防御蛋白,ザルコファガレクチンおよびザ-ペシンについて,これらが生体防御に関与するだけでなく,成虫原基の発生にも関与する蛋白であることを示した。本年度は,この中のザルコファガレクチンが,成虫原基の発生にどのようにかかわるかと分子レベルで追求することを目的とした。ザルコファガレクチンはセンチニクバエの幼虫の体表に傷をつけると,体液中に誘導され,傷口から侵入する異物を排除する働きがある蛋白である。全く同一のレクチンが,成虫原基の発生過程で原基細胞によって合成され細胞外に放出されることが示された。このレクチンを抗体により中和すると成虫原基の発生に異常が起ることから,このレクチンは成虫原基の発生をもコントロ-ルしていることが明らかになり,昨年度までに報告した。今年度は,成虫原基の発生に,自己の産生するレクチンがどのような効果を与えるかを,分子レベルで調べた。まず,35Sメチオニンにより成虫原基のいろいろな分化段階でパルスラベルを行ない,どのような蛋白がステイジ特異的に合成されるかを調べた。その結果,分化初期のelongationという時期に,分子量34KDaの蛋白が大量に合成されることが分った。しかし,apolysisやterminal differentiationと言った,分化のより進んだステイジでは,この蛋白の合成は見られなくなった。一方,elongationの時期に合成された34KDa蛋白は,その後プロセシングを受けて小さくなって行くが,ザルコファガレクチンの抗体存在下では,このプロセシングの過程が阻害され,34KDa蛋白がいつまでも残っていることがわかった。すなわち,ザルコファガレクチンは,成虫原基に外から作用して,ある種のプロテア-ゼを活性化している可能性が出て来た。今後この点につき追求する予定である。
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