本研究の目的とするところは、哺乳動物の発生初期における中枢ならびに末梢神経系の形成に関与する蛋白性因子(神経作動因子又は神経栄養因子)を検索することである。最近の生物分析化学的技術の長足の進歩により、生理活性を有する比較的低分子量の蛋白質の単離精製ならびに構造決定の技術が高度化・迅速され、多くの研究者がこの分野に殺到し、新しい因子の発見が急がれる。 本研究では生後間もない新生ラットの脳・心臓および腸管を摘出し、その抽出物のゲル濾過ー高速液体クロマトグラフ画分を、ラット副腎髄質クロム親和細胞の株細胞の一種であるPC12h(Pheochromcytoma 12h)の神経突起伸長活性を指標に生物検定を行い、活性分画の精製を進めており、すでに複数の活性画分が得られている。そのうち分子量が電気泳動的に約10.000のものが最も突起伸長活性が高く、この部分をさらに高速液体クロマトグラフで精製をくり返えして、気相アミノ酸配列シーケンサーで、配列決定を試みたが常法のエドマン分解が進まず、一方酸加水分解分はアミノ酸を含むことを示しているので、今回精製された蛋白質のN-端には遊離のアミノ基が存在せず、アシル化を受けているか又はピログルタミン酸である可能性がある。この蛋白質をさらに集めて、再度確認のために、ダンシル化を行う一方、トリプシンなどのペプチダーゼによる限定分解を行い、その分解フラグメントをHPLCで精製し、各々について、アミノ酸配列の決定を行う作業にもとりかかっており、アミノ酸の組成や、電気泳動から予想される分子量などの知見を総合して見ると、既知の成長因子等に該当するものが認められないので、新規の神経蛋白が単離されているものと思われる。他の活性分画についても鋭意精製を行っている。
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