研究課題
前年度の調査により、収集され、カ-ド化された刊記(総数1288件)について、その内容を整理・分析した結果、以下のような成果が得られた。第一に、刊記の年代は、寛文11(1671)〜延宝9(1680)年の10年間に及ぶが、時期的・地域的に極端な片寄りがある。最初期は江戸が多く、次いでこれに重なるように大阪の多い時期がある。刊記の少い数年をはさんで後期には肥後が多く出現する。これは、鉄眼の勧募活動を何らかの形で反映しているものと考えられるが、彼の伝記的記録と必ずしも相応しない面もあり、今後に課題を残した。第二に、寄進者について、その数は、数えられるものだけで延べ8395人に及び、総数では9千人を上回るものと推定される。その階層は、上は大名から下は都市や農村の庶民に及ぶ。また、女性の名が少なからず含まれることも注目に値する。第三に、寄進の金額では、半数以上の刊記がその記載を欠いた。記載のあるものの中では、一刊記中の寄進の総額が白銀6両前後のものが圧倒的に多く、白銀6両というのが勧募に際しての一巻当りの目安ではなかったかと考えられる。次に、鉄眼版の流布状況を知る為の基本資料「大蔵経請去総牒」、「全蔵斬請千字朱点簿」は、前年度以来の撮影調査を完了し、その内容をプリントアウトし、さらに整理を加えて、原稿化した。その結果、江戸期を通じての全蔵請去数は920件余、部分的な請去数は2200件余であることが判明した。また、その流布状況を検討すると、鉄眼版が江戸期仏教界における学問研究の進展に果した役割の大きさは、従来の予想をはるかに上回るものであったことが考えられる。八角輪蔵の実測図を作成した。上記の研究内容を成果報告書にまとめた。