1.研究課題を具体的に明らかにする為に、今年度の研究は空海及び真言教学の基本的文献及び資料の収集に努めると共に、空海の主著『十住心論』及び『秘蔵宝鑰』における「十住心」の展開の論理(心続生)とその構造を明らかにすることを研究の目標にした。 2.問題を簡明に浮き立たせる為に、方法論的には真言教学の文献資料と伝統的方法論に従いながら、西洋哲学の論理と方法論によって十住心の階程を解きほぐすことにした。 3.その結果、十住心の展開が三段階の住心世界の展開構造を持っていることが明らかに予想しえた。今年度は「世間心」に的をしぼり、第一住心から第三住心への展開が自我の存在と欲望に執着している本然的な「閉ざされた世界」から他縁によって他者へ向って論理的に「開かれた世界」へ、そして自我と欲望の普遍性を取り戻そうとして自我と欲望の救済の内に「閉じられた世界」へという展開のダイナミズムを新しい概念によって明らかにすることができた。 4、この考察について、日本密教学会第21回学術大学において研究発表し、学会員から数々の批判を受け、新しい知見として今後の研究成果が期待されると評価された。 5.今後の研究の課題としては、(1)十住心思想が三段階の住心世界の展開構造であることをさらに明確にする為に、「出世間心」である第四住心以降の展開の構造を明らかにする必要がある。その為には第四住心から第九住心までが新しい住心世界概念によって把捉しうるかどうかを明らかにしなければならない。そして、(2)世間心ー出世間心というカテゴリーが第十住心にどのように関連してくるのかという問題と、(3)第十住心自体の論理から十住心思想全体がどのように把促されうるのかを明確にする必要がある。
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