まず空海研究の基礎となる『遍照発揮性霊集』十巻の「一字索引」を完成した。弘法大師全集第三輯所収400-562頁のものである。この計画は10年ほど前から進めて来ており、カード化はすでに終えていた。今回は、カード枚数40550枚の最終的検討。つづいて原稿用紙への浄書である。本索引は、弘法大師全集第三輯所収本を底本としている。文学の排列は、総画順にし、画数の同じものは『大漢和辞典』(諸橋轍次著)の順序によった。それぞれの文字群における語句の排列は、弘法大師全集第三輯の頁数・行数を表示してある。又熟語でまとめておいた方がよいと思われる字で二列以上あるものは、見出しをつけて同文字の最後に出した。中国人が書いた文章(書物)が一字索引になっているものは多いが、日本人の漢文が一字索引になっているものは皆無である。この点からも本索引は、空海研究の基礎学としての独自な方法である。又この索引は、本研究が目的としている「空海と中国文学」「空海と中国哲学」を探索するための基礎資料として欠かせないものである。一字索引作製にあたっては、当初考えていたより謝金が大幅にふえた。一字索引は活字化する計画である。 論文として「弘法大師教学における因果論」を書いた。本研究全体構想の中の一分である。その内容は次の如し。まず一般的因果論、次に『釈摩詞術論』の因果、次に「緑」の解釈、次に因縁の意味、次に十二因縁の位置づけ、次に「因」と「果」の関係、次に『二教論』の因果、次に第九極無自性心の立場、次に因果論の究極について詳述してある。結論としては、因と果は究極的立場からいえば、浅より深へ進む考えをさらに発展させて、菩堤を求める心を起こすや否や、ただちに菩堤の道場に坐したままで、「因と果」の境界を越えてしまう、とするのである。
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