次の二論文を発表した。 『弘法大師教学における因果論』。 因果という言葉は、もちろん仏教の教理における中心的な問題である。空海はこの問題をどのように解決されたのか。仏教と空海がいう密教との間では、その違いがあるのか、について空海の視点の特色を明らかにした。空海の因果論は、考え方としては、弁証法的な方法と似かよった考え方であるが、一致するというのではない。空海は、求道心の進化発展の過程で、順次高まっていく境地の中で因果の展開をみている。つまり原因によって結果があるわけだが、この結果も次の結果を生む原因であるとし、その動きの中で因果を展開している。これはまた仏教でいう因果の関係とは全く違った考え方である。(昨年よりの継続) 『秘蔵宝鑰』にみる「変化」の影響。 空海は自らの思想(密教)を伝えるために、誰もが読んで理解できるやさしい文章表現に心血を注いだのである。その表現とはどのようなものかを検討していくと、中国の「変文」という表現を取り入れていることが理解できる。「変文」とは、唐代にさかえた文章の特殊なジャンルで、中国の仏教文学の中から発生した特異な文体である。日本でいえば浪花節のような庶民文学的なものである。このような表現を空海は積極的に取り入れたのである。「変文」は、敦煌文書の中にのみ見られるものであり、日本漢文史上では全く知られていない。空海がこ表現に目をつけたその見識と独創は、全く驚くべき何ものでもない。 『遍照発揮性霊集』一字索引は、現在初校校正中である。今秋発刊の予定。
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