研究概要 |
当初の研究課題で継続して研究を進めてきた。 1,『遍照発揮性霊集』一字索引の出版については,当初の計画と違い,校正段階において時間が大幅に必要となった。その原因は,底本を『弘法大師全集』第三輯(昭和40年9月1日増補三版発行)所収の『性霊集』としたことにある。底本は俗字・古字・譌字・同字等が煩雑に用いられていた。このことにより新しく資料を校合して底本を作るより時間がかかった。ともかく人海戦術によって,本索引を完成に導いている。現在四校を終っている。あと一・二回で校了となるだろう。本索引は空海著作のはじめての一字索引であると共に,日本人が書いた漢文著述のはじめての一字索引である。学界に与える影響は大きなものがあると自負している。 2,弘法大師空海の密教の特色を明らかにするのが本研究の目的である。その結果として,次の項目でまとめるため,これまでの論文の不適当な箇所を改め,全体の構成を考えた。 第一章,大師の三教思想。第二章,『秘蔵宝鑰』にみられる「変文」の影響。第三章,大師教学における「横竪」と「機根」。第四章,大師教学における因果論。これらはいずれも弘法大師の密教の中枢をなす思想であるが,その思想にはやはり,中国思想の影響が強く入っていることを明らかにした。特に第一章・第二章は直接的にそれを主張した。 ここ三年間の研究のまとめとしては,この第一章より第四章を後編とし,前編として空海と中国哲学(儒教・道教),空海と中国文学(『文選』を論じたい。
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