三年間計画で、当初の研究課題で継続して研究を進めてきた。この研究の目的は、空海の思想を明確にすることにある。従来の空海研究は、仏教特に密教の分野においてのみの研究、つまり仏典からの研究が大半である。仏典中心の研究方法では、はじめから空海を仏教の枠の中にとじ込めたことになる。これでは空海を一方面からみたことにとどまっている。 空海の思想は、独特な思想(密教)であるが、その根底には、常に中国の思想が内在している。したがって空海を理解するには、中国思想との関係が不可欠である。本研究はこの点を重視して、以下の目次にしたがって人間としての空海とその思想を浮き彫りにすることにつとめた。 序文。第一章、空海と儒教、『論語』。第二章、空海と道教、『老子』・『荘子』。第三章、空海と中国文学。第一節、空海と『文選』。第二節、空海の上表文における文章構造。第四章、空海の三教思想。第五章、『秘蔵宝鑰』にみられる「変文」の影響。第六章、空海教学における「横堅」と「機根」。第七章、空海教学における因果論。 上記第一章から第三章では、中国思想を空海がどのように理解し咀嚼しているかを中国の古典を中心に明らかにした。儒教・道教の項では、空海と中国哲学の関係を述べた。『文選』の項では、空海と中国文学との関係を明らかにした。文章構造の項では、空海が自らの中国古典からの素養を、いかなる文章表現を用いて著述したかを明らかにした。第四章・第五章では、中国思想からの直接原因とその影響を述べた。空海独自の思想(密教)については、その中心問題の二つを第六章・第七章で述べた。 『性霊集』一字索引の活字化は、現在第四板が終った。したがって現時点でコピ-を提出し、完成と同時に改めて提出する。
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