この研究は、日本神話発生期の文献と習俗とを主な対象とし、「ことば」(貴礎的概念)と「もの」(儀礼・遺跡など)の対応関係を考察することで、古代日本人の倫理を体系的に再構成することをめざしたものである。研究は主に、次の〓〓の側面からの実施された。 1.仏教をはじめとする外来漢字文化(ことば)の受容が、在来の固有信仰(もの)にどのような影響を与えたかを、神話・仏教説話・思想論などのテキスト内容の葛藤として把握・検討した。ここでは、関明的かつ内面的といわれる鎌倉仏教の中にさえ、古代的な呪術性や山岳信仰の心性が息づいていることが実証された。また、カミや天皇と外来文化の葛藤の様相が、『日本書記』『日本霊異記』等の記述に即して明らかになった。(なお、業績一覧参照) 2.古代信仰・祭祀等の研究を基礎づける実証的基盤を構築するために、内外の宗教学説の参照・検討を行なった。その成果の集大成として、『世界宗教事典』の翻訳・公刊を行なった。また、ことばとものの接点として、和歌、歌謡の問題に注目、リズム論や歌徳論の見地からの考察を行なった。(業績一覧参照) 3.神話の構造・発生の問題を、いわゆる中世神話とよばれる物語群を手がかりに考察した。成果は、主人公論、他者論、物語の時間論、発生論などの見地から『御伽草子ーは物語、思想、絵画』や、その他数篇の論文で発表された。 4.近世国学思想の古代観を研究し、とくに日本語の音声や文法についての宣長の研究をてがかりに、日本思想の中で古代の習俗が持つ意味を明らかにした。
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