本年度は、鎌倉時代書跡のうち、筆者または制作年代の明らかなもので、未調査分の調査研究を進展させるよう心がけた。 とくに、京都・西本願寺所蔵の後鳥羽天皇ほか筆の「熊野懐紙」や、宮内庁所蔵の「後鳥羽天皇宸翰消息」などを中心に、調査研究ならびに写真撮影を果たし、今後の研究基礎資料として確保した。 これらの資料を通覧すると、鎌倉時代の宮廷書道の実態がよく把握できるようである。たとえば、同時代の懐紙や消息などの書式あるいは書風に共通性が認められ、さらに、文書のもつ史料性、本文に見る国文学的価値も見逃がしがたい資料も見出される。これらは、他の文献資料による裏付けによって、さらに重要性が増すであろう。 とりわけ、書跡の様式展開を見ると、その時代に核となる人物に焦点を当て(たとえば、後鳥羽天皇など)、その書写様式や書風などを、周辺に置かれる人物の作例と比較対照し、両者の相関性を見ることも重要な意義をもつと思われる。 これによって、一つの時代様式を把握する手がかりが得られ、また一つの流派(書流)の発生および展開を見ることが可能である。 今後は、いくつかの主要な人物、あるいは代表的作品に限定して、研究を進展させる予定である。
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