本年度は、第3年目の最終年にあたり、一応これまでの研交成果をふまえながらまとめる方向で進めた。昭和63年度および平成元年度の過去2年間の調査研究のデ-タをもとに、さらに本年度に実施した調査研究のデ-タを加えて勘案すると、鎌倉時代に書かれた書跡のこの時代狂特の様式がうかがえる。たとえば、別途作成した「研究成果報告書」にも示したように、この時代には、とくに、高僧遺墨いわゆる墨跡が注目され、しかも、その筆者は文化史・宗教史上にも著名な人々で、それぞれ個性味豊かで質的にも高い書風が展開されている。しかし、主流を成す書風は、平安末期の藤原忠通を祖とする法性寺流、これを受けた後京極流、および平安の藤原行成を祖とする世尊寺流と考えられる。 ついで本研究において、遺品整理を進めるにあたり、仮りに(1)写経・(2)典籍・(3)詩歌・(4)墨跡・(5)文書に区分してデ-タを収録した。それらは実地調査のほか、近年の展覧会に出品されたものでカタログに所収されたものも含まれている。それによると、(1)〜(5)の各内容よって、少しずつ書体の趣が異なるようであり、また、筆者によってもかなり個人差が見える。のみならず制作年代が、平安に近いものと、ずっと下った鎌倉末期さらに南北朝時代のものとは、書風はもとより料紙装飾〜たとえば金銀切箔砂子などの装飾法〜にも違いが明らかであり、また金銀泥下絵についても同様に判せられる。 なお、上記の(1)〜(5)の遺品は国文学・歴史その他人文科学の重要資料となりうるもので、今後、現存遺品の資料収集と合わせ、文献資料を援用しながら、鎌倉書跡研究の解明を果たしたいと考える。現時点において研究発表の詳細は未定ながら、後日、単行本または論文によって成果を示すつもりである。
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