本研究では、視覚障害者が白杖を用いて歩行する方法を三足歩行と考え、手と杖と脚および体幹の協応関係をVTRに録画し、それぞれの部位の筋活動を記録することであった。そこで10名の視覚障害者(36〜54歳)を被検者にして、歩行中の下肢筋活動をテレメ-タを用いて記録した。視覚障害者の歩行中の下肢筋電図には、大腿直筋とハムストリングに顕著な筋放電が認められ、晴眼者の歩行時の下肢筋活動とは異なっていた。晴眼者が暗室内で歩くと視覚障害者の下肢筋活動に類似した筋放電パタ-ンが得られた。つまり、視覚障害者も、暗室内を歩いた晴眼者も危険から身を守るための歩行姿勢をとりながら歩くのである。その歩行姿勢が原因となって下肢筋群に特徴的な筋活動が生じたものと考えられる。このような歩行姿勢をAdaptive Gaitと名付けた。視覚障害者は、非視覚の世界に自分自身の歩行を適応させるために歩行姿勢を変化させていることがわかった。このAdaptive Gaitが下肢筋群に及ぼす負担の度合いは大きい。したがって、白杖歩行の時間が長くなると下肢筋群の筋疲労が増大して歩行の効率が低下することになる。次に、視覚障害者の歩行速度を測定し、さらに歩行中の姿勢を画像解析した。これらの測定から、視覚障害者の歩行速度の傾向を知ることができた。また、画像解析の結果、歩行指導の手がかりを得ることができた。視覚障害者の膝関節と足関節の屈曲と伸展に晴眼者との差異が認められた。この2つの関節の使い方を指導すれば視覚障害者の歩行姿勢は改善の余地はあると思われる。
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