研究概要 |
先天盲開眼者2名(KT,HH)脳損傷事例2名(AT,TK)および脳性マヒ児1名(KH)の協力を得て、視覚による空間認知機能の崩壊の状態とその回復・形成過程とにつき探索ならびに追跡研究を行った。現在までに得られた主な結果は次の通りである。 (1)先天性白内障の手術を受けたKTについては、事物を近距離から、ある特定の視点より見た場合にはそれを識別することができるようになったが、それらをどこから見ても識別し得るまでには至っていない。 (2)角膜移植手術を両眼に受けたHHについて、外界での歩行行動の際、動くものの認知が、近くにある静止した事物よりもはるかに容易で、しかも的確であることが明らかになった。これに対して、静止対象の色、形の属性に関する認知はかなり近距離でないと困難である。 (3)右側頭葉内側のAVMにより脳内出血を起こした少女ATについては、発症後の初期段階でみられた視覚の高次機能障害(色覚障害、道順障害、左半側空間無視)の大半は、色覚障害を残して軽減し、とくに左半側空間無視の傾向はみられなくなった。左手の触覚物体失認も、何回かの物品識別訓練を通して、殆どみられなくなり、左手指も活発に動くようになってきた。左外斜視は手術により改善されたが、手術後二重視が生じ、本年1月現在それが存続している。健忘症状、半盲の状態はまだ存続しており、両眼視機能に関しては現在訓練続行中である。 (4)脳性マヒによる肢体不自由児KHは、非定型の色覚異常、弱視、両眼立体視障害と判定された事例(右眼視力0.1、左眼視力0.4、右眼は内斜視)であるが、白色背景光に対する増分閾を指標とした分光感度の測定結果は、正常3色型の場合と同じく、3つの極大値を示した。また、古典的ステレオグラムの立体視は可能になってきており、現在RDSの立体視が可能になるかどうかを追跡研究中である。
|