研究概要 |
先天盲開眼者2名(KT,MO)、脳損傷事例3名(AT,TS,TK)、斜視児1名(KI)および脳性マヒ事例1名(KH)の協力を得て、視・運動系活動ならびにそれに基づく空間認知機能の障害状況とその回復・形成の過程とにつき、追跡研究を行った。現在までに得られた結果のうち、主要なものを挙げると、次の通りである。 (1)先天性白内障の手術を受けたKT(左眼のみ)については、近距離ではすでに十分識別できるようになった数種の輪郭線(線幅3mm)図形を20cmくらいの遠距離からでも識別できるようにするための輔生の試みを開始し、識別率が少しずつ上昇する傾向にある。 (2)角膜移植手術を昨年9月に受けた(左眼のみ)ばかりの先天盲MOについて、10種程度の色紙の識別実験を1ヵ月に2〜3回の割合で試みたところ、189cm離してもそれらをほぼ確実に識別し得るようになった(当初は20cm以内)。ただ、眼から20cm以上離れた事物についての、視・運動系による定位活動はまだ十分発現する状態に至っていない。 (3)脳損傷事例ATは、2重視か消失し、両眼視機能が回復した。 (4)脳損傷事例TSについては、視野欠損の状況を解明し、さらに事物の線画のうち、複数個並べたものの識別が難しいこと、単一事物の線画でも、45°以上傾けるともはや識別できなくなることが明らかになった。 (5)斜視児KIに関しては、視・運動系の活動と両眼立体視(視差200秒まで可能になった)および遠近弁別機能の錬成を図る試みを続けてきており、成果をあげつつある。 (6)脳性マヒ事例KHについても、両眼立体視の機能が少しずつ成立しつつある傾向が見出された(視差800秒まで可能)。立体視困難なランダム・ドット・ステレオグラムに関しても、ドット数を減じるなどの方策によりその立体視の成立を図る試みを続けている。
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