研究概要 |
先天盲開眼者4名(KT,HH,TOM,MO),脳損傷事例2名(AT,TS)および脳性マヒ児1名(KH)と斜視児1名(KI)の協力を得て、視覚による空間認知機能の障害の様相特性とその形成・回復過程とにつき、探索的な実践研究を昭和63年度と平成元年度にひき続いて行った。今年度に行われた研究の主な成果は次の通りである。 (1)平成元年9月に左眼の、平成2年7月に右眼の角膜移植手術を受けた開眼少女(MO,先天性角膜被覆症)について、手に持った台紙上の複数の図領域の眼による定位活動が当初に比べて、的確で、安定してきたが、まだ手による図領域探索と眼によるそれとの協応・調整活動は十分確実なものとはなっていない。これに比べると、眼でその所在を捉えた対象の「色」、「2次元の形」の識別活動は十分錬成されてきている。立体模型の「形態」の識別活動も可能な状態に到達している。 (2)両眼の先天性白内障の手術を受けてから約10年を経ている開眼女性(TOM)については、既知の日常場面での歩行は白杖なしで可能な状態に達しているにも拘らず、戸外で階段の下り口を見つけることが難しいという結果が得られた。他方、透視図的線画の立体視がまだ成立していないこと、その線画に「陰影」(濃淡のgrodient)をつけてもそれが立体視にとって有効ではないこと、などが見出された。 (3)脳損傷事例(AT)、脳性マヒ児(KH)および斜視児(KI)については(とくにAT,KIの場合は斜視矯の手術後に)、線画のステレオグラムの両眼立体視が可能になり始めている。ただし、RDSの立体視は難しい。 (4)Co中毒の後遺症による視覚認知障害を示す事例(TS)については、当初の「失読」「失書」の症状に変化がみられ、「ひらがな」や簡単な漢字は識別が可能になり始めている。しかし、それは「方位」に強く規定され、それらの文字や線画でも45^°傾けただけで識別困難となる。
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