本研究は乳児のもつ生得的個人差として知られる気質的特徴と、母親の育児行動の特徴が、生後2年目に現れる乳児の自己認識能力の個人差にどのような影響を及ぼすのか、ということを吟味することが目的である。現在までのところ主題である自己認識の調査(18か月時、24か月時)が完成していないが、可能な限りの発達指標および子どもの気質と母子相互作用のあり方について相互の関連を一次分析した結果の概要を述べてみる。 1.周期性・適応性が高く、機嫌もよいと子どもの気質的特徴を捉えた母親は育児に自信を持ち、幸福感も強い。逆に扱いにくい子どもと捉えた母親は育児に負担感、不安が強い傾向がみられた。しかし後者の場合も子どもの状態に応じた努力をしている部分が認められ、それに従って子どもも変容するのか、子どもの行動特徴(気質)の捉え方が変容していくことが検出された。 2.以上の点は子どもが12か月の時点で、扱いやすい気質(周期性・適応性機嫌が高い評価)の子どもの場合、母親が安心するのか、あまり手をかけないといった変化が見られることと軌を一にする。 3.自己認知の発達(18か月迄)に対する影響過程には、子の気質的特徴に刺戟された親の働きかけ、応答がもらすものと、それらには比較的独立な気質的特徴そのもの(反応の強さ 閾値 活動性)が、対物的交渉に影響を与えるという形でもたらすものの2側面が存在することが示唆された。このことは自己認知の性質自体にも、以上のような異なるルーツに基づく2側面のあることを示唆しよう。 4.以上のようなデータは、子どもの発達が、子どもの要因と環境(母親の働きかけ・対物交渉)の要因が相互に影響しあい、その相互性のあり方により、異なる発達の道筋を通る結果として個人差が出現することを示唆する。
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