本研究は、乳児の持つ生得的個性として知られる気質的特徴と、母親の育児態度・行動の特徴が、子どもの認知発達および社会・情動的発達、とりわけ生後2年目に現れてくる乳児の自己認識能力と言語能力の個人差にどのような影響を及ぼすか、についての吟味が目的であった。 本年度は最終年度として生後2年目の18か月調査・24か月調査の実施、および本研究の出発点となった妊娠期調査と昨年度の生後1年目の調査(出生直後、生後1・3・8・12か月時)の諸結果をあわせた、総合的な分析を行った。最終的に変数が2000を超えるため(繰り返し調査分含む)、変数要約のためと概要な結果を把握するために、第一次分析としての諸変数間の相関関係の吟味に留まっている。概要的結果は以下に示すように、2点に集約されたが、細部には仮設として持っていなかった諸結果も産出され、新たな仮設づくりの作業が必要とされる。最終的な報告はそれらの吟味が終了した段階で公刊する予定であるが、同時に次の段階の研究計画を建てていく必要性を痛感している。 〈概要的結果〉 (1)母親により評定された子どもの気質的特徴は、母親の育児行動のあり方に影響を与えるとともに、逆に、育児行動のあり方によって変化する側面が多い。 (2)育児態度・行動の影響は、発達の全領域ではなく、育児行動の種類により、特定の領域にのみ及ぶことが多い。 以上の結果は、発達のコ-スが気質ないし育児行動によって一義的に決まるのではなく、少なくとも両要因の相乗的相互作用の産物であること、発達の個人差は、「異なる働きかけは、異なる領域の能力を伸ばす」という領域固有な発達から考えて、環境の違いにより異なる発達のコ-スを想定する「発達の相対性」理解を支持する傾向を示唆していよう。
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