平成元年度においては、前年度における既存文献や各種資料の検討を踏まえて、次のような点について研究した。一つは、高齢者の社会的適応場面の一つとしての家族に関する問題についてである。それらは、「人口の高齢化と家族」(『徳島大学社会科学研究』3号、1990年所収)および「高齢化と家族生活」(飯田哲也・遠藤 晶編著『家族政策と地域政策』多賀出版、1990年所収)としてまとめられた。前者においては、高齢化を個人の高齢化、世帯の高齢化、人口の高齢化の3つの側面を区別して考察することの意義を明らかにするとともに、高齢化社会における高齢者の家族生活の問題は、高齢者の適応努力の問題としてではなく、人口高齢化の必然性ということを考えれば、産業社会への個人および家族の適応行動がもたらした一種の構造的矛盾という観点からとらえ直すことが重要であることを指摘した。後者においては、したがって、高齢者の自助努力や家族の私的扶養によっては、高齢者の社会的適応力を高めることには限界があり、産業社会における人口高齢化と高齢者の家族生活との構造的矛盾を踏まえた家族政策が求められることを各種デ-タに基づいて論じた。 本年度の二つめの研究内容は、高齢者の社会的適応の問題を環境条件から検討する一端として老年観の問題を検討したことである。それらは、「高齢者の社会的地位と老年観」(『徳島大学社会科学研究』3号、1990年所収)および「大学生の老後観に関する一考察」(1989年日本老年社会科学会大会にて発表。同一題目で同学会誌『老年社会科学』に投稿済み)としてまとめた。前者に関しては文献学的研究を中心とし、後者に関しては調査を実施した。現在、高齢者を対象とした調査を実施中であり、来年度は、これまでの研究結果も含めて最終的とりまとめを行うとともに、映像資料の作成・編集を行う予定である。
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