最終年である本年度は、(1)背戸山の植生、(2)アンケ-ト調査による実態と居住者意識、(3)礪波平野の散村との比較及び集村一般との比較、等について調査研究をすすめ、(4)最後に壱岐島の散居集落の固有性と普遍性を明らかにし、今後の課題について考察した。 (1)背戸山の植生は全般的にスダジイを優先種とするスダジイ-ヤブコウジ群団の自然林からなり、高木層から草本類に至るまで豊かな植物生態系を維持している。防風機能はもとより、保水、水源涵養、環境や景観上の役割に至るまで様々な機能を荷っている。しかし、機能の後退、松喰虫による被害、人工林化などの変化が認められ、地域に合った植生の保全が必要である。 (2)これまでの調査対象集落である3集落に於てアンケ-ト調査を行ない、より広範な実態の把握と居住者の意識を調査した。これによると、土地利用、空間構成、触や講中の行事には、集落毎に多少の地域差がみられる。また居性者には背戸山の保全、隠居、釜屋等の継承の意向が強く、農地の集約化についても現状維持的な傾向があり困難なようである。 (3)礪波平野では扇状地に立地し、主に杉の防風林に囲われた屋敷が田園に散在して散村を計成しており、地形等の立地条件も景観も異なる。同じく地割制度が行なわれていたが、替地により田畑を屋敷廻りに集約していた。隣家との間隔は100〜150mで田園を含み、住宅が大きく、少棟構成である点も壱岐との著しい違いである。 (4)“壱岐型土地利用パタ-ン"とりわけ散居パタ-ンを構成している屋敷廻りの土地利用は、背戸山、前畑を併せ持った自足的で生態系保全型の土地利用である。散居を支えているソフトな仕組も含めて、継承を図ると共に、田畑の集約化、中心性の創出、定住性の回復、高令化への対応、自然環境の保全、生活環境の充実等が今日的課題となっている。
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