合金・合金半導体における凝固界面は、組成過冷却に伴う不安定により、平面状からセル状、デンドライト状に遷移し、凝固後の材料は、それに伴った微細構造を有することが知られている。これら界面形状の変化の様相を知ることは、不安定性に伴うパターン形成の問題として物理的に興味深いだけでなく、合金や合金半導体材料の機械的・電機的性質を製造過程において制御する上で工学的にもきわめて重要である。本研究においては、超音波パルス法を用いて凝固界面をリアルタイムで観測する新しい手法を開発し、これを用いて合金の凝固界面が平面状からセル状に遷移する過程を研究することを目的とする。 本年度は、超音波パルス法を用いて凝固界面をリアルタイムで観測する測定系を製作し、錫合金系における定常凝固の実験を行った。測定系は、超音波測定装置と凝固セルからなっている。超音波測定装置は、2系統の受信装置をもったもので、一系統は超音波エコーの伝播時間測定から界面の位置・移動速度を観測するためのものである。もう一系統は、超音波エコーの振幅変化から界面形状の変化を測定するのに使用する。キャリブレーション測定によれば、界面位置の分解能は10μ以上、また振幅変化の分解能は0.1dB以上で、本研究の目的に十分であることが確かめられた。凝固セルはステンレススチール製で、2分割ヒーターとチリングロッドの採用により、セル内に望みの温度傾斜が得られるようになっている。また、ヒーターへの供給電力を時間的に制御することにより、凝固速度を制御できるようになっている。これらの装置を用い、99.99%錫(不純物は主として鉛)の定常凝固過程(凝固速度一定)を観測した結果、従来のディキャンティング法によって得られた平面→セル状遷移速度付近で、大きな振幅変化が観測された。この振幅変化は、平面→セル状遷移による凝固界面の反射率変化によるものと思われ、本測定系で平面→セル状遷移を観測できることが分かった。現在、凝固条件を変えて実験を繰り返すとともに、サンプルの酸化によるものと思われる信号の不安定を取り除くため、実験を無酸素雰囲気中で行えるよう、凝固セルを改良中である。
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