本研究は新しい超伝導物質“酸化物高温超伝導体"の電子物性を調べ、それを新しいエレクトロニクス素子に応用することを目的に設定されたものである。酸化物高温超伝導体は発見されて間がないために、材料準備はもちろんのこと、いろいろな面でまだ研究の進展がほとんどない状態にある。本研究では高温超電導体において非平衡超伝導現象が存在できるのかどうか、という命題をおき、非平衡現象の追及をとうしてこの新物質にメスを入れることを試みる。また、非平衡現象が起こるならば直ちにトランジスタへの応用を計ろう、という計画を立てた。 研究は高温超伝導体薄膜の準備技術レベルに大きく依存するものである。そこで我々は物性研究にも工学研究にも必要・不可欠なエピタキシャル成長技術の研究にまず重点を置いて進めてきた。YBCO系の薄膜については現在かなり高水準のエピタキシャル膜が得られる。もちろん多結晶膜の作製など問題でない。その他、プロセス技術一般についても研究を進め、素子作製が問題なく行えるに至った。 ソ-ス・ドレイン電極を具備したYBCOチャンネルの上にAlゲ-トを持った準粒子注入形3端子トランジスタを作製し、この素子をもとに非平衡超伝導現象の研究を行った。ゲ-トから注入される準粒子によってトランジスタの電流は変調された。多結晶薄膜のトランジスタにおいてはジョセフソン臨界電流が変調された。一方ではエピタキシャル膜で出来たトランジスタでは、超伝導臨界電流が準粒子注入により直接変調されることも判明した。いずれの場合も、ゲ-ト電流に対するチャンネル電流の変化は増幅されていた。 高温超伝導特性の理論基盤が未だに樹立できていないので、とりあえずここではBCS理論に基づく非平衡超伝導の解析を行い、ここで得られた実験結果と対比してみた。解析結果は実験を良く説明しており、高温超伝導体においても非平衡超伝導の状態が起き得ることが明らかになった。その非平衡超伝導特性は、少なくとも現象論的にはBCS理論で良く記述されることも判明した。
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