本研究は、エレクトロニクス、レ-ザ-工学、極短波長光学機器の分野で要求されている超高精度機器を切削加工により安定して得る、いわゆる超精密切削に関するものである。超精密切削は同時に微細切削であり、切削厚さは工作物の結晶粒サイズ以下となり、したがって各瞬間で、面、方位の異なる単結晶の切削が基本となる。 1)微細切削装置の試作と切削状況の観察:理論解析のための切削モデルを確立するために、微細切削時の切り屑生成機構を安定して連続的にSEM内で観察可能な切削装置を試作した。切削厚さ数ミクロンでの切削過程の観察と計測を行い、切り屑生成が連続的であり連続体力学としての取扱いが可能なこと、変形が単純剪断面モデルに近いことを確認した。 2)単純剪断面モデルによる検討:切削方位により剪断角、すくい面摩擦角が変動すること、結晶のすべり理論にシュミット因子を導入することによりすくい面上の摩擦角が既知ならば剪断角が予測可能なこと、さらに単結晶を異方性体と見做いても摩擦角を基礎デ-タとして剪断角の予測が可能なことを示した。 3)単結晶の流動応力特性と摩擦特性の検討:単結晶の剪断試験とすべり理論を基にその流動応力特性を導き、これを基礎とし、摩擦特性式を提案して、その妥当性を確認した。 4)単結晶切削過程のシミュレ-ション:切り屑生成過程を剪断面前後で異なる異方性体の結合と見做し、異方性塑性理論に流動応力特性、摩擦特性を導入した切削過程のシミュレ-ション法を確立し、その妥当性を示した。これにより、切削時の変形場、応力場が理論的に予測可能となり、切削面の定量的評価が期待できる。
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