本研究は、チョクラルスキ-法による単結晶育成において生じている流動・伝熱過程について理解を深めること、特に凝固の際に結晶内に出現する成長縞の発生機構を伝熱学的に解明することを目的とするものである。第1年度には、チョクラルスキ-法におけるるつぼ内の流動・伝熱過程を模擬するための実験装置を作り、感温液晶を液層中に懸濁させる手法によって流れと温度分布の同時可視化を行った。その結果、るつぼおよび結晶の回転数、加熱・冷却の条件、および液体の物性値の組合せがある範囲の値をとる場合には、るつぼ内の液体の流れおよび温度分布に軸対称で周期的な振動が起ることを見出した。また、このような実験と並行して、大型計算機による数値シミュレ-ションを行い、実験で観測されたものとまったく同様の流れおよび温度分布の周期的振動を得ることができた。そしてこの結果から、実際のチョクラルスキ-法においても、るつぼ内では、浮力による自然対流と回転による強制対流の干渉のために、流れと温度場の変動が生じているものと推測した。そこで、ガリウムひ素(GaAs)の物性値を用いて再度数値シミュレ-ションを行った結果、90秒程度の周期で変動する流れが得られ、この値が、実際の成長縞の周期とほぼ一致することから、成長縞の成因はこのような流れの振動であろうという結論に達した。本年度は、このような融液内の変動流を抑制する手段として有効と考えられる外部磁場の効果について理論的検討を行った。まず近似解析によって、導電性流体の自然対流に及ぼす磁場の影響について調べ、ある臨界値以上の磁場を印加すると、液体の流速が急激に減少すること、そして流速の減少の割合は磁場の強さの2乗に比例することを明らかにした。次に、チョクラルスキ-法による実際の単結晶育成プロセスについて、ガリウムひ素(GaAs)の物性値を与えた数値計算を行い、ある程度以上の強さの磁場を印加することにより、融液内の流れの変動を完全に抑制できることを確認した。
|