直流対向ターゲット型スパッタリング装置中に反応性ガスとして窒素をスパッタリング・アルゴンガスに混入し、作製条件をいくつか変化させて、窒素含有量の異なる鉄窒素膜を作製し、その膜の結晶構造の同定および作製条件について調べた。 以下に交付申請書に述べた研究計画に対応させて簡潔にまとめる。 (1)ガス分圧と放電電流を制御因子とすると、所定の窒素含有量の相、ε相、σ'相、α相が得られることがわかった。これは既に我々が得ていた結果とよく対応するものであった。 (2)基板温度と薄膜の構成相との関係を調べ、基板温度の上昇はε相域を減少させ、低放電電流域に移行させる傾向があることが認められた。この特徴はいろいろなガス圧下での膜にも見られ、その原因は膜中の窒素量と関連していることが主であろうと結論されたが、これについては次年度以降、実際に加熱過程でのその場観察の研究にて確かめる。 (3)薄膜の繊維組織をX線回折法(極点回)で調べ、室温からの温度上昇で、基板上に(110)配向が著しくなることを確認した。 (4)薄膜の微細構造を電子顕微鏡で観察し、スパッタしたままの膜はε相でき歪みを多量に含んだ微細結晶粒からなっていること、それに伴い電子回折図形はハロー状であること、加熱すると相分解が起り、ε相からσ'相、σ'相からα相が析出して来ることがわかった。この分解過程についてはさらに高分解能電子顕微鏡観察を行うこととした。 (5)薄膜の磁区構造を観察し、生成相の磁気構造の特徴についてまとめるとともに、ローレンツ電子顕微鏡法で観察される磁壁像の観察から、薄膜の飽和磁気の大きさを決定する新しい方法を見出し、VSM法で測定した値と比較してかなりの測定精度を持っていることを明らかにした。
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