Ag-Cd系合金β相の単結晶試料を用い、マルテンサイト変態に前駆して現れるX線散漫散乱の測定を2種類の装置を用いて行った。 1.全自動4軸解析計(リガクAFC-5)を用いて室温における散漫散乱強度分布を逆格子空間の3次元的な広い領域について行った。 (1)(001)面上の〔ITO〕方向に筋状の散漫散乱が観測された。 (2)〔111〕面上に広がる一様な板状の散漫散乱が観測された。 以上は他のβ相合金においても観測されており、β相合金特有の性質であると思われる。 2.高エネルギ-物理学研究所放射光実験施設、BL-4Cの4軸X線回折装置に低温装置を組み込み、散漫散乱の温度依存性を測定した。 (1)通常のX線回折装置では観測出来なかった〔ITO〕軸上のq=1/2〔ITO〕に弱い散漫散乱ピ-クが観測された。 (2)このピ-クの強度は冷却にともない約160Kで急激に増大し、昇温にともない約175Kで急激に減少した。 (3)〔ITO〕軸の筋状の強度と、ピ-クの強度はまったく逆の温度依存性を示した。 (4)マルテンサイト相における強度分布の測定から、母相とマルテンサイト相の方位関係が非常によく保たれていることがわかった。 Ag-Cd系合金β相におけるX線散漫散乱の測定によりq=1/2〔ITO〕にピ-クが観測されたことは、この合金が低温でM2H構造をもったマルテンサイト相に変態することと深く関係しており、散漫散乱とマルテンサイト相の構造との関係について重要な知見が得られた。今後PFでのマシンタイムが得られればより詳しい低温実験を行う予定である。
|